なぜ怒らないんですか?
2020年12月27日
「先生、なぜ怒らないんですか?私、さっき失敗したのに」
最近、こんなことをスタッフさんから言われました。
私はとっさに答えられず、「え~と、別に腹も立たないから」と返事するのがやっとでした。
たしかに、医療機関でミスとか失敗というのは、「あってはならないこと」です。
しかし人間は、誰でも必ず間違えることがあります。
大切なのは、人間は失敗をすることを前提に、絶対に患者さんへ被害をもたらすようなことがないよう、失敗が小さいうちに、それが大きくなる芽を摘むことだと思います。
たとえばちょっとした間違いや失敗をしたスタッフさんを、私が怒鳴ったり、しつこく叱ったり、暴力をふるったりしたら、どうなるでしょうか。
そのスタッフさんはもう二度と間違いを起こさない?
いいえ、どんな人間でも必ず失敗をします。どんなに注意をしても、人間である限り必ずです。
しかし、院長からひどく怒られたという、恐怖の記憶は、スタッフさんの心にたぶん一生焼き付きます。
それは、次の失敗があった時に、「もうあんな目に遭いたくない」という回避行動を起こさせます。
ミスを隠します。誤魔化します。正当化します。
誰だって怒鳴られたりしつこく叱られたり暴力を振るわれたりしたくないのです。
つまり、スタッフさんをひどく怒ったりすれば、チームワークが壊れ、ミスが隠蔽され、事なかれ主義がはびこり、患者さんからは「怖い先生ねえ」と思われます。
百害あって一利なしとは、このことです。
いつだったか忘れましたが、私はそのことに気がつき、
「もう絶対にスタッフさんを感情的に怒らない」「指摘するときは、優しく、丁寧に、論理だてて説明する」と決めました。
自分で、そう決めてしまったのです。
自分で決めたことですので、守も守らないも自分次第です。
ですが、(だらしない私にはめずらしく)これが上手くいきました。
怒らないようにしていたら、不思議にだんだんと、怒りも湧いてこなくなったのです。
いつの間にか、自分で気を付けなくても、人を怒鳴ったりすることが全くなくなりました。
そうすると、これも不思議なことに、スタッフさんたちとの間でコミュニケーションがとりやすくなりました。
どういうことを悩んでいるのか、気になっているのか、お互いに率直に話し合えるようになりました。
ミスが隠されることもなく、スタッフさん皆で共有し、ミスした人を責めず、問題が起こる構造の改善について議論できるようになりました。
歯科医院では、歯科医が高い技術や知識、人間性を持つことが必須です。
でも同じくらい、ともに働くスタッフさんたちの力が大切です。
歯科医とスタッフさんは主従の関係ではなく、一つのチームでそれぞれ役割を果たす対等の専門家です。
私は当院のスタッフさんたちと働くことができて幸せです。
心からそう思えるようになったのは、そんなに昔のことではありません。
多くの失敗、悲しい出来事があって、自分も大人になりました。
人よりもだいぶ、遠回りして、ようやく成長できたのかもしれません。
まだまだ未熟者ですが・・・。
ぐるっと一周してみたら、同じ景色が違って見えた。そんな感じです。